こんにちは。SHIPマインドフルネス瞑想センター の「うえ田ボビ夫」です。
私は25歳のとき、母に自分の肝臓のおよそ3分の2を提供しました。
それから25年が経ちました。
50歳になった今、あらためて振り返ると、臓器を提供した経験は、手術が終わった時点で完了したものではなかったと感じています。
身体には手術の痕が残り、その経験について、言葉にならないまま置かれていた気持ちもありました。
今回は、生体肝移植ドナーとなった一人の当事者として、25年後の今、感じていることを書いてみたいと思います。
25歳で生体肝移植のドナーになった
25年前、母は当時、原発性胆汁性肝硬変と呼ばれていた病気を患っていました。現在は、原発性胆汁性胆管炎と呼ばれている病気です(資料1)。
母が生きるためには、肝移植が必要でした。当時25歳だった私は、健康な身体から肝臓のおよそ3分の2を切除し、母に提供しました。
生体肝移植では、健康な人がドナーとなり、肝臓の一部を患者さん(レシピエント)に提供します。肝臓には再生する性質がありますが、ドナー手術が負担のない手術であるわけではありません。全身麻酔や手術に伴う危険性があり、手術痕や痛み、違和感が長く残ることもあります。(資料2)
けれど当時の私は、ドナーになった経験について立ち止まって考えたり、誰かに話したりする機会をほとんど持たないまま、日常生活へ戻っていきました。
「提供してよかった」だけでは語れない
移植医療では、病気を抱えたレシピエントの治療や回復が中心になります。それは当然のことだと思います。
一方、臓器を提供したドナーは、もともと健康な人です。身体が回復すると、医療や支援との接点は少しずつ減っていきます。
周囲からは、
「一生分の親孝行をしたね」
「なかなかできることじゃないよ」
と、この体験を肯定されることもありました。私自身も、母に肝臓を提供したことを否定したいわけではありません。
しかし、賞賛されることと、自分の経験を理解してもらうことは同じではありません。
大きな手術を受けた身体の感覚。自分がドナーになると決めたこと。家族の命と自分の身体が強く結びついた経験。それらをどのように受け止めればよいのか、当時の私には十分に言葉にできませんでした。
生体肝移植によって母が移植を受けられ、現在も多くの命が支えられていることに、私は深い敬意を感じています。
その一方で、医療が発展してきた今、ドナーの身体や心に残った経験を受け止める仕組みは、どれほど育ってきたのでしょうか。
ドナーは「臓器を提供した人」として賞賛され、手術が終わると、物語の中から少しずつ姿を消していきます。しかし、ドナーにも手術を受けた身体があり、提供に至るまでの決断があり、その後も続いていく生活があります。
「提供してよかった」という思いと、「自分もつらかった」という気持ちは、同時に存在してよいはずです。
1万人を超えるドナーと、その後の課題
日本では、2023年12月末までに、累計10,809例の生体肝移植が行われています(資料3)。
そして、ドナーがその後、身体や心にどのような経験を抱えているのかは、あまり知られていません。
2004年に日本肝移植研究会が実施した全国調査では、生体肝移植ドナー2,667名を対象にアンケートが行われ、1,480名から回答が得られました。
多くの人が肝臓を提供したことを肯定的に受け止めていた一方で、38.9%の人が将来の健康に不安を感じていると回答しています。また、予想以上に手術や術後が厳しく、後悔したことがあると答えた人もいました。
感謝されていても、つらいと感じることはあります。提供してよかったと思いながら、痛み、不安、迷い、怒り、孤独を抱えることもあります。
しかし、それを話すと「提供したことを後悔している」と受け取られるのではないかと心配し、言葉にできない人もいるのではないでしょうか。
25年後、瞑想中に感じる手術痕の違和感
その後、私はマインドフルネスや瞑想を学び、実践するようになりました。
瞑想では、呼吸や身体感覚に注意を向けます。あるとき、身体に注意を向けていると、25年前の手術痕の痛みや違和感が、はっきりと感じられました。
それは突然生まれた痛みではありません。そこにありながら、長い間、見て見ぬふりをしていた感覚でした。
私はそのとき、手術は25年前に終わっていても、その経験は今の身体につながっているのだと感じました。
MBSRでは慢性疼痛を対象とした研究も行われていますが、私は瞑想によって手術痕の痛みを治そうとしたわけではありません。
瞑想中は、身体に起きていることへ注意を向けます。そこでは毎度のように不快さを感じて嫌になる訳ですが、次第にそこにあるものとして共存できるようになっていきました。
瞑想の時間を通して、私は初めて、25年前の自分の身体と経験に少し近づけたように思います。
MBSRと慢性疼痛に関する研究については、「MBSRにはどんな効果がある?研究・エビデンスから解説」で紹介しています。

もちろん、すべてのドナーが同じように感じるわけではありません。提供後の受け止め方も、身体に残る感覚も、その後の生活も、一人ひとり異なります。
だからこそ、「ドナーになったのだから、こう感じるべきだ」と決めつけず、それぞれが自分の経験を自分の言葉で話せることが大切なのだと思います。

ドナーにも、語り、つながれる場所を
全国調査では、94.1%の人が「生体肝移植について、経験者の立場から相談や質問に応じてくれるドナーやレシピエントがいるとよい」と回答していました。
多くのドナーが、医療的なフォローだけでなく、同じ経験をした人と話せる機会を求めていたことが分かります。
生体肝移植ドナーは患者ではありませんが、大きな手術を受け、その後も変化した身体とともに生活していく当事者です。
手術から何年、何十年が過ぎていても、ふとした瞬間に当時の身体感覚や気持ちがよみがえることがあります。そのとき、一人だけで整理しなければならないとは限りません。
同じ経験をした人と出会い、互いの経験を話し、聞き合うことで、初めて言葉になることもあると思います。

私がつくりたいピアグループは、移植医療を批判したり、臓器提供を否定したりするための場所ではありません。
「提供してよかった」という思いも、それだけでは語りきれない気持ちも、どちらも否定せずに話せる場所です。
SHIPマインドフルネス瞑想センターでは、生体肝移植ドナーが経験や気持ちを安心して分かち合えるピアグループへの登録を受け付けています。
医療がレシピエントの命を支えるように、ドナーのその後を支えるつながりも必要です。
このコラムが、同じような経験をした誰かにとって、「自分だけではなかった」と思えるきっかけになればと願っています。

参考文献・資料
・日本肝臓学会「肝移植の適応疾患」
https://www.jsh.or.jp/medical/transplant/indications/
・日本移植学会「生体ドナー―臓器移植Q&A」
https://www.asas.or.jp/jst/general/qa/liver/qa10.php
・日本移植学会「データで見る臓器移植」
https://www.asas.or.jp/jst/general/number/
・日本肝移植研究会「生体肝移植ドナーに関する調査報告書」
https://www.asas.or.jp/jst/general/doc/donor_survey_full.pdf
<スタッフ>
上田知之(社会福祉法人SHIP所属)
公認心理師、精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士
SEP(トラウマ療法:ソマテック・エクスペリエンシング)
TSM(トラウマ・センシティブ・マインドフルネス)
MBSR講師 in Traning(IMA/IMCJ)
USPTベーシックレベル
TFT初級アルゴリズム
